宮崎地方裁判所 昭和55年(ワ)404号 判決 1984年10月15日
原告
日高千代
ほか三名
被告
河野正文
主文
一 被告は原告日高千代に対し金九〇万一八一〇円、同日高幹郎に対し、金五五万四五四〇円、同日高健次、同日高千代子に対しそれぞれ金一三万四五四〇円及びこれらに対する昭和五四年一〇月一三日から支払いずみまでいずれも年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分しその一を被告のその余を原告らの負担とする。
四 この判決は原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告日高千代に対し金五六七万一八〇〇円、同日高幹郎に対し金三七一万四五三二円、同日高健次、同日高千代子に対しそれぞれ金三一一万四五三二円及びこれらに対する昭和五四年一〇月一三日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの連帯負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 訴外日高重は、昭和五四年一〇月一二日午後六時二六分頃宮崎市大字浮田二八八六番地先国道一〇号線路上において次の交通事故により死亡した。
(一) 加害車両 日産スカイライン四六年式型
普通乗用自動車(宮崎五六て二二〇六号)
(二) 被害者 日高重
(三) 事故の態様 被告が国道一〇号線を高岡方面から宮崎方面に向つて制限時速の毎時四〇キロメートルを超えて、時速六〇キロメートルの速度で進行中宮崎市大字浮田の路上先において加害車両から見て国道の左側にいた日高重を加害車両の左側面車輪で約一〇メートルはね飛ばした。
2 訴外日高重は右交通事故により脳挫創の傷害を受け、約一時間後の同日午後七時二二分宮崎市末広町の原田病院において死亡した。
3 被告は加害車両を保有し、かつ自己のために運行の用に供していたから自動車損害賠償保障法三条により日高重及び相続人である原告らが蒙つた損害を賠償する義務がある。
4 損害
(一) 亡日高重の逸失利益
亡日高重は国家公務員共済年金を毎年二三八万〇八〇〇円受領していたところ、本件事故によつて死亡し、遺族扶助料として配偶者である原告日高千代が年間金一二二万六四〇〇円を受給することになり差引き年間一一五万四四〇〇円の得べかりし利益を喪失した。
亡日高重は、日新商事有限会社の取締役として一か月金五〇万円(年間六〇〇万円)の役員報酬を得ていた。亡日高重の生活費として右記役員報酬の三五パーセントを控除する。よつて亡日高重の年収は五〇五万四四〇〇円(一一五万四四〇〇円+三九〇万円)となる。亡日高重は事故当時七五歳の健康な男子であり、平均余命八・二六歳の二分の一にあたる約四年間は就労可能であつたと考えられるから年五分の割合による中間利息を控除すると一八〇一万五三九七円となる。
算式 505万4000×3.5643(4年に対するホフマン係数)=1801万5397(円)
右逸失利益につき原告日高千代は配偶者とし九分の三その余の原告らは子として各九分の二宛それぞれ相続した。
(二) 慰藉料
亡日高重の死亡に伴う原告千代の慰藉料は金四〇〇万円、その余の原告らの慰藉料は各二〇〇万円が相当である。
(三) 葬儀費用
原告日高幹郎は亡日高重の葬儀費用金六〇万円を負担した。
(四) 原告らは自動車損害賠償責任保険から保険金一三〇〇万円を受領したので、相続分に応じて取得し、各損害金に充当した。
(五) 以上によれば原告日高千代の損害は
600万5133+400万-433万3333=567万1800(円)
原告日高幹郎の損害は
400万3421+200万+60万-288万8889=371万4532(円)
原告日高健次、同日高千代子の各損害は
400万3421+200万-288万8889=311万4532(円)となる。
5 よつて原告らは被告に対し、請求の趣旨記載の判決を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし3の各事実は認める。同4は不知。
三 抗弁
本件事故は、夜間優先道路を直進する加害車両の直前に被害者が小さな路地より自転車で飛び出して来たものであり、大幅な過失相殺をすべきである。
四 抗弁に対する認否
否認する。本件事故は被告の一方的過失により生じたものである。
第三証拠
証拠関係は本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
一 請求原因1ないし3の各事実は当事者間に争いがない。
二 抗弁(本件事故の態様)について
右当事者間に争いがない事実、成立に争いのない甲第三ないし第五号証、第六号証の一ないし一一、証人熊瀬川孝子の証言、被告本人尋問の結果によれば以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。
被告は昭和五四年一〇月一二日午後六時二六分頃(当時は薄暗かつた)、宮崎市大字浮田二八八六番地先国道一〇号線(幅員六・四メートル)を高岡方面から宮崎市市街地方面に向けて毎時五〇キロメートルの速度で普通乗用自動車(宮崎五六て二二〇六号)を運転していたところ、対向車線上を進行していた森馨運転の車両の直後を訴外日高重が自転車を押して鳥越方向の道路(幅員三・一メートル)から城之下方向の道路(幅員二・三メートル)に向けて交差点を渡つているのを発見し衝突を避けようとして急制動をかけ、左にハンドルを切つたが間に合わず、右訴外人を車両の左側面車両ではね同人を死亡させた。
以上の事実によれば、車両等は交差点に入ろうとするとき、及び交差点内を運行するときは、当該交差点の状況に応じ、当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない注意義務があるのに被告はこれを怠り漫然と時速五〇キロメートルの速度で右交差点を通過しようとした過失がある。しかし一方訴外日高重においても幅員三・一メートルの狭い道路から幅員六・四メートルの広い道路を横断するに際し、当時薄暗くなつていたにもかかわらず、通過車両の直後を左右の安全を充分確かめることなく自転車を押して横断した過失がある。前記認定事情のもとでは両者の過失割合は訴外日高重三割、被告七割と認定するのが相当である。そうすれば被告は訴外日高重及びその相続人らが蒙つた損害の七割を賠償する義務がある。
三 請求原因4(損害額)について
成立に争いのない甲第七号証、第一一号証、第一四、一五号証、原告日高幹郎本人尋問の結果(第一回ないし第三回)、弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
(一) 亡日高重の逸失利益
亡日高重の昭和五四年一月から九月までの所得は三三七万八四八〇円と認められるので同人の生活費としてその三五パーセントを控除すると同人の年間逸失利益は二九二万八〇一六円となる。
算式 337万8480×12/9×0.65=292万8016円
亡日高重は本件事故当時七五歳の健康な男子であり、平均余命八・二六歳の二分の一にあたる約四年間は就労可能であつたと考えられるから年五分の割合による中間利息を控除し、その七割を計算すると七三〇万五四二九円となる。
算式 292万8016×3.5643(4年に対するホフマン係数)×0.7=730万5429円
右逸失利益につき原告日高千代は配偶者として九分の三、その余の原告らは子として各九分の二宛それぞれ相続することとなる。
(二) 慰藉料
本件事案の内容、亡日高重の前記過失割合を斟酌すると亡日高重の死亡に伴う原告千代の慰藉料は金二八〇万円、その余の原告らの慰藉料は各一四〇万円と認めるのが相当である。
(三) 葬式費用
原告日高幹郎は亡日高重の葬儀費用六〇万円を負担したので被告は原告日高幹郎に対し、金四二万円の賠償義務がある。
(四) 原告らは自動車損害賠償責任保険から保険金一三〇〇万円を受領しているので前記相続分に応じて各損害金に充当すると原告らの蒙つた損害は以下のとおりとなる。
原告日高千代の損害は金九〇万一八一〇円
算式 730万5429×3/9+280万-433万3333=90万1810(円)
原告日高幹郎の損害は、金五五万四五四〇円
算式 730万5429×2/9+140万+42万-288万8888=55万4540(円)
原告日高健次、同日高千代子の各損害は金一三万四五四〇円となる。
算式 730万5429×2/9+140万-288万8888=13万4540(円)
四 以上の事実によれば原告らの本訴請求は損害賠償請求金のうち原告日高千代について金九〇万一八一〇円、同日高幹郎について金五五万四五四〇円、同日高健次、同日高千代子について各一三万四五四〇円及びこれらに対する不法行為の日の後である昭和五四年一〇月一三日から支払いずみまでいずれも年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において正当であるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 有満俊昭)